歴史
『えんどう』の起源は古く、紀元前7000年頃にメソポタミア地方で麦と一緒に栽培され、そこから東西へ伝わり、日本へはインド→中国経由で奈良時代に穀物として渡来したとされ、平安時代に編纂された辞書『和名抄(わみょうしょう)』には「野豆(和名は乃良万米(のらまめ))」の名で記載されています。
野菜として、さやえんどうが食べられるようになるのは江戸時代に入ってからで、本格的な栽培は明治・大正時代から始まりました。その後、欧米より様々な品種が持ち込まれ、広まっていったそうです。
1992年に古代エジプトの王「ツタンカーメン」の墓から美しい紫色の莢をもつ「えんどう豆」が出土したニュースを覚えていらっしゃるでしょうか?およそ3000年前に黄金のマスクや宝石などの副葬品と一緒に埋葬されていたという話から、えんどう豆が当時から大切な食糧とされていたのだろうな〜と想像できますね。今この「ツタンカーメンのえんどう豆」種を引き継いだものが、どこぞで栽培されているとのことなので、ぜひ一度食べてみたいものです。
種類
さて、“えんどう豆”といえば、『さやえんどう』や『グリーンピース』、ここ数年で『スナップえんどう』も定番となりました。
『さやえんどう』や『グリーンピース』は、日本では江戸時代になってから栽培されるようになり、実際、家庭の食卓で食べられるようになったのは、明治・大正時代に入ってからのこと。これらは同じ仲間で、原産地は中央アジアから中近東、地中海沿岸とされています。ちなみに『スナップえんどう』はアメリカで開発された新しい品種です。まれに“スナックえんどう”という表示も見られますが、スナップが正式名称です。
ともにビタミンやミネラル等の栄養を豊富に含む、マメ科のエンドウ属。それぞれの名称と特徴は下記の通りなので、この機会に覚えてみませんか?
★未熟の豆を若い莢(さや)ごと食べる『さやえんどう』。別名を『絹さや』といいます。こちらの言い方の方がお馴染みでしょうね。
絹さやをさっと茹でたときのシャキシャキ感とほのかな甘さは格別です。
★完熟する前のやわらかい豆は『グリーンピース』。『えんどう豆』という呼び方は総称だけでなく、グリーンピースを指すこともあります。レシピに『えんどう豆』とあるのは実のグリーンピースのことだったりしますので、よく確認してくださいね。実が十分に成長したら莢が青いうちに収穫します。中の実だけを食用にするのですが、莢付きでえんどう豆として売られていたり、実の豆だけをグリーンピースとして売られたりしています。
グリーンピースご飯を炊いたときの青々しさとみずみずしさは季節限定のご馳走。
★莢ごと食べるさやえんどう、中の豆を食べるグリーンピースに対し、莢も豆も食べるのが近年スーパーで普通に見かけるようになった『スナップえんどう』は、ぷっくりとふくれた姿が可愛らしいです。莢と豆が両方楽しめるということで、アメリカで流行し徐々に世界に広まったといいます。ちなみに“スナップ”とは英語で、手でポキンと折れるという意味。最近お目見えしたように感じますが、流通はなんと昭和50年代からあったそうです。
こうしてみると「えんどう」を口にする機会は一年を通して意外に多いのが分かります。緑鮮やかな料理の引き立て役という以上に、日本人好みの四季を感じる食べ物なのでしょう。そして、上記のようにえんどう豆は成熟するまでの各過程を味わうことができる数多ある豆類の中でも特別に珍しい作物です。絹さやとグリーンピースは野菜、完熟豆を乾燥させた豌豆(えんどう)は雑穀に属します。
栄養
さやえんどうとグリーンピース、豌豆では若干異なるが、いずれもタンパク質、糖質、ビタミンB群やビタミンC、カロテン、カリウムなどのミネラル、食物繊維など多くの栄養素を含んでいます。えんどう豆は糖質の代謝を助け、エネルギーを作り出し、疲労回復(ビタミンB1)や細胞の新陳代謝を促進します。皮膚や粘膜の機能維持や成長(ビタミンB2)、脳神経を正常に働かせるナイアシンや動脈硬化を予防します。
貧血を予防し、新しい赤血球を作るのに欠かせないビタミンである葉酸も多いのが特徴で、骨を丈夫にするカルシウム、リン、マグネシウムも多く含まれ、強力な抗酸化作用(β-カロテン)も期待できます。これだけ聞いてもいいことだらけの野菜ということがわかりますね!!
調理・取り扱い
さやえんどう(絹さや)やスナップエンドウは筋を取って使いますが、おしりのヒゲは和食の世界では美しいものとして取らずに使います。おそらく、料亭料理からの流れで「こんなに新鮮です」とお客さまに視覚からアピールする目的かと思われます。
よって筋はヘタからお尻にむかって取っていきます。その時点で少し硬いなぁと思えば、ヒゲからヘタに向かってもう一度丁寧に取りましょう。見た目よりもおいしさ優先でいきます。中国料理、洋食はとって使うのが常。和でも家庭料理の範囲ではOKとしましょう。家は料亭ではありませんものね。
グリーンピースは莢に包まれている間は、ある程度おいしさをキープできます。莢から出して豆の状態で売っているものは便利ですが、しかと商品をみないと…いつ剥いたのかが疑問ですね。時間と手間が許せば莢付きのものを買うのがおすすめ。
和食では比較的、形をそのまま使うことも多いですが、味が絡みにくいので、たっぷりえんどうが主役の時には莢を二つ切りにするとよいでしょう。スナップえんどうだと、2つに割るとそこに味が入り込みやすいので、料理によっては形は気にせずに切るほうが、おいしく食べることができます。
また、単にゆでるときは塩を入れてゆでた後、できたら水にさらさないほうが豆科本来のおいしさが生きます。色優先の時は水に取りますが味は少し水っぽくなります。グリーンピースのゆでたものを保存する場合は、ゆで汁ごと冷凍なり冷蔵なりします。完全密閉にするのでしたら、ゆで汁をきって保存はできますが、少し難しいですね。
えんどう豆になる前と後
★えんどうは若芽も野菜として食べられており、「豆苗(とうみょう)』がまさにそれで、もとは中国でよく食べられていたものです。今では、様々な料理に使われるようになりました。
★畑での人生を全うした完熟豆を乾燥させたのが豌豆(えんどう)。その他にも、乾燥豆を戻した赤えんどうはみつ豆にも登場しますね。青えんどうは煮豆や甘納豆、鶯餡などになって、ホクホク感を楽しませてくれます。
えんどうは奥深い野菜なのが分かりますよね。どうぞ、栄養・薬膳・効用などのコーナーも読んでください。
おまけに豆苗のお話し
中国料理専門店や現地中国で食べられている豆苗は、4〜5cmはある比較的大きな若芽。にんにくと油で炒め、塩で味つけるシンプルな料理は家庭料理の定番中の定番。炒めた後に少量の清湯スープを加えたものは「豆苗炒清湯」となり、有名ホテルのレストランでメニューになれば、ひと皿1500円はする高級青菜料理に変身!!
豆苗の持つ独特の旨みがスープにほどよく溶けだしているかどうかがシェフの腕の見せ処といわれているほど、中国料理では愛されている食材です。
日本では種子が小粒で短期間によく育つ、豆苗専用の品種を発芽させた若苗が、パックに入って売られるようになって定番化していますね。これは先端10cm位をカットして料理に使った後に水を与えておくと1週間もしないうちに再び次の芽が伸び収穫できます。パッケージを見ると二度楽しめますと書いてありますが、本来の旬である3〜5月は三度たのしむことができますよ。豆の生命力を身近で感じられる嬉しいおまけつき。
しかも価格がリーズナブルということもあって、今では日本の食卓に登場する回数も増えてきたのは読者のみなさまにもご存じのところです。