“豆腐”というと、夏だと奴っこのイメージが強いですね。最近の日本の気候は猛烈に暑く、すぐに食べられるおかずでもあり、どう料理しても美味しくできる優秀な食材ですね。
奴っこだけではなく、ささっと煮たり、焼いたり、揚げたりしたあたたかいおかずとしての豆腐は、夏も冬も年間通してのおかず作りにもぴったりの素晴らしい食材。簡単に食べたい人は温めて醤油とおかかだけでも絶品です。
現在豆腐はスーパーマーケットで売られることがほとんどですが、一昔前まではどこの街にも、豆腐屋さんがあってそこに買いに行き、ふた昔前ですと、豆腐屋さんが、一軒一軒売りに歩いたものです。いまは食材という意識が強いので、最近のつぶしてパンにしたり、豆腐はどこに入っているの?という、料理もかなり出てきました。
昔は、作り手の顔がはっきりした時代だったので、つぶしてなんだかわからなくなる料理は、豆腐さんに申し訳なくてできなかったでしょうねえ。
昭和の時代、どこの豆腐屋さんも、そのまま食べたり、豆腐の美味しさがの生きるようなイメージで自信をもって作っていた気がします。朝早くから大豆を蒸して、絞って、固めて、冷やして、大きいお風呂みたいなところできれいな水に浮かべながら壊れないようにそっと掌の上にのせて、1丁ずつ魔法のように、カットしていく姿は、ついこないだのことのように思い出します。
江戸時代後期には豆腐百珍という本も話題になるほど、日本人は昔から豆腐が大好きでした。もともと中国を渡って入ってきたのですが、中国の火を通した豆腐料理が愛されているのに対し、日本は水が大変良いせいか、そのまま食べる冷奴や温奴、湯豆腐などが日本人の和の定番。
それは食材ではなく、すぐ食べることのできる豆腐屋のおじさんが作ってくれるお惣菜感覚に近いものでした。赤ちゃんの離乳食として、大活躍させたお母さんたちも、沢山いるはずですよね。
(文・本田明子)