キャベツ

今が旬の春キャベツは甘くて柔らかいので、生で食べる料理には今の季節が一番かと思います。

さらにキャベツは「食べる胃腸薬」と言われ、胃腸薬でおなじみの「キャベジン」が含まれます。これはビタミンUの別名。この成分が胃の粘膜を整えたり、胃腸壁を修復強化する働きがあり、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の予防や胃もたれなどの改善をはかってくれるすごい野菜なのです!

キャベツは、生食はもちろん、炒めても蒸しても煮ても美味しい。主菜にも副菜にもなるので飽きがこない。それに加え、和風洋風どちらにもよく合うので、毎日食べたい野菜ですね。


1 キャベツの歴史
 なんとキャベツは世界最古の野菜のひとつ!!古代エジプトでは、薬用効果が目的で甘く煮てデザートにして食べられていたという文献が残っています。ところが、日本で一般的に食べられるようになったのは、ず〜っと後のお話で、明治以降のこと。

キャベツの別名は、その形から玉菜(タマナ)。最初から丸かったかというと、そうではなく、キャベツの祖先に近いとされるのが野生種のケール。聞いたことありますね。ブラジルなどでは、今も普通に肉料理の付け合わせに食べられている、味の濃い、苦い葉っぱ。青汁の主材料としても有名ですね。ケールの葉は巻いてなくて、ちょっと縮れていて、緑が濃く、背がぐんと伸びる植物。ケールの歴史は古く、紀元前7〜8世紀の古代ギリシャ・ローマ時代にはすでに胃腸を整える薬草として食べられていたということです。

その後、地中海沿岸地域に侵入してきたケルト人たちに栽培され、ヨーロッパを経由してアメリカ、アジアへ。その過程で、一度にいっぱい葉が収穫できるよう茎についている葉と葉の空間が詰まるように品種改良され、やがて玉はつくらない葉ボタンへと変化していきます。さらに、茎が短い芯になり、葉が密になってボール状に、そして現在のような丸い結球性のキャベツになって、料理も庶民のものになっていったと思われます。

欧国の副菜定番レシピ


2 一般家庭の食卓に
 現在日本人にとって、キャベツと言えば定番の「とんかつにキャベツの千切り」思い浮かびますよね。戦前・前後、日本では1900年代初めに銀座の老舗洋食屋さんで「ポークカツレツ」に千切りキャベツを添えられたのが始まりともいわれます。まだまだ、高級なごちそうです。一般の庶民の口には到底入らなかった時代。そして戦後、某とんかつ店が付け合わせにキャベツを使ったことから、戦後の復旧とともに一般家庭に入りこみ、今も身近な野菜として君臨し続けています。

西欧では火を通して食べられていたキャベツが、葱などを薬味にする以外に野菜の生食文化がほとんどなかった日本で受け入れられたのは、これはあくまでも想像ですが、脂がたっぷりの少々重たい肉料理と一緒に生のキャベツを食べるとお腹がスッキリ、お口の中がさっぱりしたことから、肉料理の付け合わせとして人気が出たのかもしれません。

 さて、話を明治にちょっと戻します。日本人の食生活の西洋化に重要な役割をはたしていく文献として、明治15年(1882年)に福沢諭吉によって創刊された『時事新報』という日刊新聞がありますが、その中で、「何しよう子(ね)」という毎晩の献立を紹介する記事が明治26年9月24日〜明治27年2月18日まで掲載されていました。

今でこそ、当たり前の料理記事その頃、新聞というメディアに料理の献立が紹介されるのは初めてのことだそう。その献立の中に、明治26年10月4日の献立に、「煮物 キャベーヂ巻き」を見つけました。

作り方はキャベツを丸ごと茹でて葉を一枚ずつはがし、叩いた牛肉と卵、メリケン粉を混ぜた団子を包む、とあり、醤油と味醂で煮て和風に仕立てている。合わせる献立は、蜆汁と、酢で〆たシコ(かたくちいわし)の卯の花和え。

 また雑誌、明治24年に創刊された女性向け雑誌『女鑑(じょかん)』では、明治28年11月5日発行第97号の「家政〜だいどころ」コーナーで「ロール、キャベーヂ」がより細かい作り方で紹介されている。

キャベツの葉は一枚ずつはがしてから塩茹で、肉には塩、コショー、牛乳を加えてよく混ぜ、「コゲ汁」で蒸し煮する、と書いてある。作り方が時事新報よりも少し進歩している感じだ。残念ながら「コゲ汁」がいったい何なのか調べてみたがわからない。野菜や肉や魚を焼いたときに鍋に残る出しガラのようなものに水を加えたものだろうか、はたまた、ご飯のおコゲ汁か―?!

1890年代に発行されたこれらの新聞や雑誌は、ごく少数の知識欲の強い人たちに読まれていたようで、そういった人たちが牽引し、やがては庶民に広がり、日本の生活スタイルは急速に西洋化へ向かっていった時代に、キャベツという食材もおおいに絡んでいます。

明治から昭和の食文化の西洋化は、当時の主婦の憧れでとして、台所で日常の中でキャベツを素材にし、楽しみながら、ご近所さんと、いまでいう女子会ならぬ井戸端会議で、苦心の和洋折衷料理の自慢話などで広がっていったのかしら、、、なんて想像したりできますね。

そして、時は120年程も経っているのに、当時のロールキャベツの作り方の基本的なところは現代と大きく変わっていないのだからすごい。当時のロールキャベツは、いったいどんな味だったのでしょう。


名脇役としてのキャベツ

2回目 キャベツの栄養・薬膳・効用
3回目 キャベツの旬・買いもの
4回目 キャベツの保存と調理・種類

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