スパイスで冬を乗りきる

まだまだ朝晩の寒さは油断ならぬ2月。1日の温度差が体に響いたり、新年度に向けて何かと忙しかったり、体調を崩しやすい時期です。とにかく冷やさない様、体に気を使って、残りの寒さをのりきろう!


身近なスパイス その1
『カレーパウダー』

カレーパウダーはみんなのおなじみスパイス。実はいろんなスパイスの複合であります。昔から日本人が上手に使ってきた黄色く、食欲をそそるもの。カレーうどんや、カレーピラフもみんなこれです。
   
カレーパウダーおまけ話・・・カレーパウダーは、カレー料理のためにあらかじめブレンドされたミックススパイスのこと。カレーパウダー発祥の地はインド?と思いがちですが、実はインドからスパイスを持ち帰ったイギリスです。スパイス使いに慣れていなかったため、あらかじめ調合したものをイギリス料理のシチューに加え、小麦粉でとろみをつけ、インド風カレーを作ったと言われています。

日本には、文明開化の頃、この英国式カレーが洋食のカレーライスとして伝来し、一緒にカレーパウダーももたらされました。その後カレーは、お米と一緒に食べられる洋食ということもあってか、はたまた日本人の微妙な味の好みにマッチしたのか、日本の国民食と呼ばれるまでに普及し、カレーパウダーはどの家の台所にも常備されるスパイスになりました。

ところで、カレーパウダーにはどんなスパイスがミックスされているのでしょう。ここでスパイス名をスラスラと挙げられる方は、きっと相当なカレー通。しかし多くの方は、普段何気なく使っていたり、あるいはカレーパウダーという1種類のスパイスがあると思っている方もいらっしゃるかもしれません。せっかくの機会ですから、カレーパウダーの中身を探ってみましょう。

カレーパウダーを構成するスパイスは、厳密に決まっているわけではなく、カレー粉を製造するメーカーによっても違い、お国柄も反映されると言われます。一般的には、赤唐辛子、ジンジャー、ブラックペッパー、ターメリック、クミン、シナモン、クローブ、ナツメグ、コリアンダー、マスタード、カルダモン、ガーリック、フェネグリーク、カレーリーフ、ローレル(ベイリーフ)などが組み合わされています。(スパイス解説&薬膳監修:吉開有紀)


身近なスパイス その2
『胡椒・山椒・花椒』

無意識に手にとってガリガリ引いたり、ラーメンやさんで、パパッと入れたり。蒲焼きを見れば、粉山椒。おなじみのスパイスです。これ、身体を温めるんです。
    胡椒、花椒、山椒おまけ話・・・世界各国で親しまれているスパイス、ペッパー。胡椒、花椒、山椒・・・英名にはどれもPepperがつきますが、胡椒はコショウ科コショウ属のつる性常緑草木の果実、花椒と山椒はミカン科サンショウ属の落葉低木の果実や果皮です。

胡椒は、爽やかな芳香とほどよい辛味が特徴で、肉のにおい消しにも効果があり、古代から大変珍重されたスパイスです。インド南部、マレーシア、ブラジルなどの熱帯地方で生産されています。東西のスパイス貿易では通貨と同等に扱われ、中世ヨーロッパでは、地代や税金の代わりになるほど高価なものだったそうです。15世紀、コロンブスやヴァスコ・ダ・ガマが東方への航路を見つけようとした目的も、実はコショウ発見のためと言われています。

胡椒にはいろいろ種類があります。黒胡椒は、熟していない緑色の果実を乾燥させたもので、白胡椒は熟した果実の果皮を取り除いて乾燥させたもの、グリーンペッパーは未熟な果実を塩漬け、酢漬け、あるいはフリーズドライで保存したものです。日本で売られているピンクペッパーは、ウルシ科サンショウモドキ属のコショウボクの実を乾燥させたもので、コショウとは異なる植物です。辛味よりも香りがきわだち、色合いも美しいので料理に添えられたりします。

中医薬膳では、胡椒は温裏類に属し、体を温めて冷えによる痛みを止めたり、発汗、食欲増進、健胃、利尿作用があるとされています。
 
花椒は英名をSichuan Pepper(Sichuanは中国語で“四川(しせん)”の意味)、山椒はJapanese Pepperと言います。花椒と山椒は同じサンショウでも種類が異なり、山椒は日本が原産、花椒は中国四川、雲南、甘粛、河南、河北、山西省などで主に生産されています。花椒は成熟果実の果皮を乾燥したもの、山椒は春は木の芽、夏は実山椒、秋は粉山椒(秋に熟した山椒の殻の部分を粉にしたもの)として、四季折々の料理に使われます。

花椒・山椒はどちらもさわやかな芳香とピリリとした辛味がありますが、花椒は山椒よりもさらにしびれるような辛味があるのが特徴です。中国四川料理に多く用いられ、麻婆豆腐がその代表。ほかにもホールのまま漬物に加えたり、粗塩と一緒に煎ったものをすって“花椒塩“を作り、野菜や揚げ物などにつけて食べたりします。山椒はうなぎの蒲焼きや焼き鳥にふったり、佃煮などでお馴染みですね。お正月に飲むお屠蘇(とそ)や七味唐辛子の中にも入っています。

中医薬膳では、花椒・山椒は体を温め、冷えによる関節痛やお腹の痛みをやわらげたり、体内の余分な湿気を取り除く作用があるほか、健胃や駆虫効果があると考えられてきました。辛味成分のサンショオールが、脳を刺激し内蔵の働きを活発にして、胃腸の働きを助けるほか、香り成分のシトロネラールやリモネンなどに、抗菌・防虫作用、食欲増進や新陳代謝を促す効果があると言われています。(スパイス解説&薬膳監修:吉開有紀)


もう少し仲良くしましょう その3
『クミン』

あまり使ったことがない、と感じられる方も多いことと思います。ところが、このクミン、その正体は、カレーパウダーに配合される重要なスパイスで、カレー独特の香り、あの食欲をそそる香りの立役者。これまで多くの人が、幾度となく口にしているスパイスだったのです。クミンは特有の香りだけでなく、ほのかな苦みとわずかな辛さをもつ繊細なスパイスです
    クミンおまけ話・・・クミンは、エジプトなどを原産とするセリ科の1年草の種子(クミンシード)を乾燥したもので、独特な芳香とほろ苦さ、ピリッとした辛味をあわせもつスパイスです。ホールのまま、あるいはそれを挽いたものを使います。

日本ではあまりなじみのないように思われがちですが、実はカレーパウダーやチリパウダー、ガラムマサラなどに配合され、それぞれのミックスパウダーの風味を特徴づける重要な役割をしています。北アフリカ、インド、中国、インドネシアなどで主に栽培されています。

聖書の中にもたびたび登場するクミンは、世界各国でさまざまな料理に使われ、まさに世界をめぐるスパイスと言えます。たとえば、北アフリカでよく作られるクスクス(デュラム小麦を小さな粒状にしたものを肉や野菜、豆などと蒸し煮する料理)やタージーン(円すい型の蓋のついた土鍋で肉や野菜を蒸し煮する料理)に、アラブ諸国やトルコでは挽き肉料理や野菜料理に。

スペインではサフランと一緒にシチューに使い、ギリシャのスズカキヤ(ミートボールのトマトソース煮込み)、アメリカ南部のチリコンカン、中国西安料理では牛肉や羊肉の炒め物、羊串(シシカバブー)などに欠かせないスパイスです。

インドでは、カレー料理以外にも、サブジという野菜の蒸し煮、炒め煮にクミンがよく使われます。インドにおいてクミンは、胃腸を整えて消化・食欲を促進したり、お腹の張りをおさえる薬としても用いられています。中医薬膳でも、同じようなはたらきがあるとされ、さらにクミンは体を温める作用もあり、冷えからくる胃の痛みやお腹の痛みをやわらげる働きがあることが古い中医書物にも記載されています。

クミンにはホールタイプとパウダータイプがありますが、ホールタイプのクミンは炒め物や蒸し煮に最適です。クミンは肉や魚、野菜など、いろいろな食材に合わせやすいスパイスですが、とくに野菜の中では、にんじん、たまねぎ、ピーマン、キャベツ、じゃがいもとの相性が抜群です。クミンを合わせた途端、シンプルな野菜料理が異国情緒漂う料理に変身するのですから、何とも不思議、クミンは魔法の香りです。

ホールタイプのクミンを使うときは、ほかの具材を炒める前に油で炒め、クミンの香りを充分に引き出して油にうつすことがポイントです。クミンがスタータースパイスと言われる理由はここにあります。この油を少し多めに作っておいて、“クミンオイル”として、炒め物やサラダなどに使うのもおすすめです。(スパイス解説&薬膳監修:吉開有紀)




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