とんかつ物語
ひと昔、いや・・・ふた昔前まではとんかつ屋はいたるところにあり、まったくもって、庶民の食べ物だった。たっぷりの千切りキャベツに、赤だしのみそ汁、そして、ちょっとした漬けものがついていた。
みそ汁は、少しお金を多く出すと豚汁に変えてくれる店も多かった。キャベツとご飯はおかわり自由という店も多く、キッチンスタジオのスタッフも「よしっ今日は元気を出していこう」なんて時は、ぞろぞろと師匠のおごりで行ったものだ。
15年も前になるだろうか、日本全国健康志向が広まると同時に、なぜかとんかつは人気が下降して、とんかつ専門店は激減したと思う。キッチンスタジオの近く(JR中央線西荻窪駅前の西口、東口に1件ずつ)にあったとんかつ専門店も、時代ともに消えてしまった…残念だ
師匠の息子のK君がスタッフ仲間としてやっている頃、このご飯おかわり自由がかなり魅力的だったらしく、でもとんかつのおかわりはないわけだから、1枚のロースかつで丼ご飯3杯を最後まで、かつとともに美味しく食べる真剣勝負と、いつもマガオ。
で、揚げものといえばご飯を忘れて、熱々のうちにとんかつを一気に食べてしまうH。Hが3切れめくらいのとんかつに手を出す頃、必ずK君はHにこう言った。「どうすんのよ・・・そんなに先にバクバクおかず食べちゃって…ご飯は何で食べるの?おれは3杯分のご飯ととんかつの配分を考えてるんだよぉ」。
確かによくよく見ていると、ひと口のかつで3〜4口のご飯を食べているようだ・・・。
Hの皿にはかつはすでになく、千切りキャベツにソースをかけ、みそ汁、漬けものでご飯を食べている。まあ、どちらもそれなりに食べ方の指針があるので、このスタイルはずーっと変えないであろうと思われる。
しかしかつというのは、フライ衣の中に素材が包まれ、サクッと食べた瞬間に中の素材が最大限に生かされた、素晴らしい日本の洋食文化で、愛すべき立派なおかずだ
たとえ不況でヒレやロース肉に手が出なくても、このかつという調理法はじつに美味しそうに仕上がる。中の素材が何であれ、どーんと逞しいおかずとして食卓に登場するは間違いがない、嬉しい一皿なのであ〜る