ひな祭り ~女子の甘味処~

大和書房刊 より
昭和58年 初秋
記 小林カツ代

女なら、いつまでも大切にしたい「雛祭り」

私はね、お雛様をみると、なぜかぽわーっと涙ぐんでしまいそうになるんです。ここ四、五年の現象かな。

それには多分に思い出病的なところがありまして、ぽわーっとなるのは、必ずまったく昔風の段のお雛さまを見た時だけ。

などというと、雛節句にまつわるドラマティックな思い出があるみたいだけれど、そんなの何もないのです。

ただ、幼い日にお雛さまの前で雛道具を使っておままごとをしたりしたことや、近くのすごいお金持ちの友だちの家の、縦にも横にも高く長くずらずらっとお雛さまが並んでいたことなど、子どもには豪華というより気持悪く、なるべくあまり見ないようにしていたものです。

それなのに、おとなになってからお雛さまをみるとぽわーっと涙ぐんでしまうというのは、お雛さまイコール幼い日々の思い出、こよなくやさしかった母、などがぽわぽわっと浮かぶからのかも知れません。


それにしても、お正月といい雛まつりといい、日本独特の行事はいいですね。

クリスマスも楽しいけれど、やっぱりどこか借りものくさいですもの。

パリ祭?なんて、シャンソン好きの私でも、日本でそういうのやるのはどうもどこか面映ゆく、気乗りしないのです。

行事というほどでなくても、この日にはこういうものを食べるといったことをちょっと書いてみましょうか。

「お正月」-お煮〆、七草がゆ 「節分」-いり豆 「雛祭り」-雛あられ 「子どもの日」-ちまき 「土用のうしの日」-うなぎ 「お月見」-おだんご 「お彼岸」-おはぎ 「七・五・三」-千歳アメ 「クリスマス」-デコレーションケーキ

…といったところでしょうか。

外国人もそれぞれの国によって、この日にはこんなものを食べる、といったことが必ずあるものです。

毎日の、生きるためだけでなくて楽しみとしての食べもの行事。

ただし、日本は昔、貧しかったので、せめてこの日だけはといった思いもこめられていたでしょう。


さて、お雛祭りといえば、ごちそうはたいていおすし、菜の花のひたしもの、はまぐりの吸物といったところがわが家の通例。

近頃は何でもデコレーションケーキが登場して、クリスマスに限らず雛祭りや子どもの日、七・五・三にまでそれらにちなんだ大型ケーキが売り出されています。

でも、この日にあのゴテゴテケーキは似合いません。

雛祭りといっても女の子のいない家庭ではお雛さまを飾ることはあまりないかも知れません。

私だって、今は十一才の娘のため面倒でも飾ってやりますが、夫婦ふたりになったら雛祭りなんて行事、忘れてしまうかもね。

いや、いくつなってものお雛さまを飾ろうと思っています。

いつか京都に旅した時買った小さい小さい雛人形、親王と内親王だけだから、二人暮らしに戻った時ならかえってぴったり。

その頃もやっぱりぽわわーって目がうるむかな、そんな時は、“白玉”を作ろうっと。

きなこやあんこをまぶすのでなくて、ニッキの香りがするシロップで食べよっと。

冷たーくひやしてツルリっと。


・・・古式白玉の作るポイント


白玉粉は、ふつう、水でこねる人が多いのですが、ぬるま湯でこねるとよくこねられるし、水でやるよりずっとなめらかな、口あたりのいいものが出来ます。

40度くらいというと、人肌よりほんのわずか高め程度ですからあくまでぬるいお湯です。

それを白玉粉の半分の量入れ、耳たぶくらいの柔らかさにします。

シロップは水と砂糖を火にかけ、煮立ってからもしばらく煮て作ります。

冷めたらシナモンを少しふりこみます。

嫌い人はむろん、入れなくていいですよ。

古式白玉なんて、私が勝手につけました。

こういう食べ方をするとなんとなく時代をずーっとさかのぼりたくなるんです。

昭和も大正も明治も、もっともっとさかのぼって、平安朝の頃のような……。

平安朝に白玉あったかしらん?

お雛様をお祝いして春を迎えましょう

※小林カツ代エッセイより…

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