ほうれん草

3 栄養・薬膳・効用

 ポパイが食べるとむくむくとパワーが出るほうれん草は、ビタミン、ミネラルどれをとっても栄養価の高い、緑黄色野菜です。そのため総合栄養野菜ともいわれます。

その代表的なのは「鉄分」です。ほうれん草に含まれる鉄分は、牛レバーと同じくらいです。鉄分は赤血球を作る材料になり、”貧血の予防”に効果的です。そして”抗酸化作用”の代表選手「β-カロテン」も豊富です。活性酸素の働きを抑制することで、”癌の予防”にも効果を発揮するとも言われています。

 また、ビタミンCは免疫力を高め風邪の予防等に役立ちます。シミなどを防ぎ美肌効果も高いので、とくに女性には嬉しい緑黄色野菜です。ビタミンCはビタミンEを多く含むものと食べると、働きが倍になり、より効果を発揮します。昔から食べられている『ごま和え』はビタミンEが豊富な胡麻とほうれん草を一緒に摂る事で”美肌への道”へ適したお料理となっていますね。

 さらに、ほうれん草に含まれるカリウムの働きが優れており、体の中で”摂りすぎた塩分を体外に排出してくれる”役目もあります。この様にとても色々な栄養素を含み、パワーの出るポパイのほうれん草。旬の12〜3月には、心がけて食べるようにしましょう。



 前章に出てきた『ほうれん草の浸し』は、江戸の節約おかず番付「日々徳用倹約料理角刀取組※」の春の段にランクインしており、江戸っ子にもそこそこなじみの料理だったことがわかります。冬に間に美味しさが増したほうれん草を、浅春頃に食べるのをよしとしていたのだとしたら、かなり粋なこと。

※日々徳用倹約料理角刀取組(ひびとくようけんやくりょうりすもうとりくみ)とは…江戸時代、庶民の間で『見立番付(みたてばんづけ』というものが流行し、大相撲の番付に見立てた「節約おかず」番付のこと。ほかに名所、酒、女房、名刀…など、当時の様々な番付が残っているそうです。

ちなみに現代っ子によく間違えられる小松菜、「小松菜の浸しもの」は通年の段の前頭七枚目にランクイン。人間の世界でいえば、ほうれん草にとって、小松菜は永遠のライバル。小松菜は将軍吉宗に気に入られ、江戸川区小松川付近で多く栽培され、言わばブランド青菜。アクを取る必要もなく、用途も広いとなれば、その人気は、ほうれん草もかなわなかったということかもしれないですが、(小松菜の話は次の冬に)・・・・。

時を経て2015年に厚生労働省が発表した「日本における野菜の摂取量ランキング」を見てみると、ほうれん草は大根、玉葱、キャベツ、白菜、人参に続いて、堂々の第六位。十七位の小松菜を大きく引き離しています。ほうれん草は、今では日本の青菜の代表格であることは間違いないですね。

身体に沁みる薬膳料理

また、江戸時代中期に書かれた本草書『本朝食鑑』には「菠蔆」(はりょう)の名でほうれん草の説明が載っています。「菠蔆」は中国語でペルシャのこと。性味は冷・甘。効能の一部に「渇きを止め、乾燥を潤す。便通のよくない人は適当に食べるがよい。」と書かれているんです。

当時の人が、ほうれん草にβ-カロテンや鉄分、ビタミン、食物繊維が豊富に含まれているなどといった、小難しい知識とともにほうれん草を食卓にのせるなんてことは、市民の暮らしの中にあるわけもなく、どうやら体によさそうだ、という体感的なことで食べ、認識され広まっていったのではないかしら。

1回目 ほうれん草の歴史・種類
3回目 ほうれん草の旬・買いもの・保存
4回目 ほうれん草の調理・取り扱い

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