栄養と薬膳
ほうれん草は、ビタミン、ミネラルどれをとっても栄養価の高い緑黄色野菜のため、総合栄養野菜ともいわれてます。
代表的な成分は「鉄分」で、牛レバーと同じくらい含まれています。鉄分は赤血球を作る材料となり“貧血の予防”に効果的。また活性酸素の働きを抑制する“抗酸化作用”の代表選手「β-カロテン」も豊富なことで“癌の予防”にも効果を発揮するとも言われています。
また、ビタミンCは免疫力を高め風邪の予防等に役立ちます。シミなどを防ぎ美肌効果も高いので、とくに女性には嬉しい緑黄色野菜です。ビタミンCはビタミンEを多く含むものと食べると、働きが倍になり、より効果を発揮します。昔から食べられている『ごま和え』はビタミンEが豊富な胡麻とほうれん草を一緒に摂ることで“美肌への道”へ適したお料理となっていいるのでおススメですよ。
さらに、ほうれん草に含まれるカリウムには“摂りすぎた塩分を体外に排出してくれる”役目もあります。このように、とても色々な栄養素を含み、パワーの出るポパイのほうれん草。旬の12〜3月には、心がけて食べるようにしましょう。
2015年に厚生労働省が発表した「日本における野菜の摂取量ランキング」を見てみると、ほうれん草は大根、玉葱、キャベツ、白菜、人参に続いて、堂々の第六位。十七位の小松菜を大きく引き離しています。ほうれん草は、今では日本の青菜の代表格であることは間違いないですね。
旬
収穫が一番多いのは1〜2月ですが、食べるのにおススメの時期は3〜4月のほうれん草で、4月の中旬までその味を楽しむことが出来ます。
この時期のほうれん草は、すくすく育ち、軸も太く、根は赤く、葉はぼてっと厚く、大変美味しいんです。
ハウスで育つほうれん草が多い中、あちこち葉の色が鮮やかな緑ではないものが、寒い時期に出回ろことがあります。そんな野性味あふれたほうれん草は“露地もの”といい、親切な八百屋さんになると“露地”と書いてあります。ごっつい見た目とは違って、茹でたり、炒めたりすると、柔らかく、味は抜群に甘く、これは力強い露地物ほうれん草ならではの醍醐味。
ほうれん草は日本中で作られていますが、主に夏の暑い時期の6〜10月は北海道で、9〜4月までは千葉、埼玉、群馬、茨城などの関東で日本全体の40%を生産しています。
調理・取り扱い
ゆでるときは、必ずたっぷりの煮立った湯に入れること。あく抜きとして塩を小さじ1は入れる。さてカツ代流のゆで方の特徴は、世の中の常識とは少し違っていて、固い茎からではなく、葉のほうから湯に放つ。
そして、入れてから菜箸で茎をもって裏返し、湯がもう一度煮立ったときがほぼゆだったとき。ザルにあけ、大急ぎで2〜3回水を取りかえ、きれいな冷水に10分ひたしておく。
なぜ葉のほうから先に入れるかというと、茎のほうからだと上の方で元気に葉がバサバサともたついて、湯にスムーズに入っていかず、熱が伝わりにくいが、葉からだと根にむかって一気に熱が伝わり、不思議なくらい早く行儀よくゆだるのです。
えっ!?と驚いた人は、頭で料理をしないで、まずはご自分でやってみると、その茹で加減に、納得できるはず。真実は現場でおきているんですよ。
そして、次なるコツはきれいな冷水にさらすことがとても大事。生ぬるい水にさらすのでは“さらす意味”がないのです。ピカピカのほうれんそうのお浸しは、まずこれが一番。味が大違い!
定番のお浸し、胡麻和え以外にも、バターやチーズ、ヨーグルトなどとも相性よしで、グラタン、キッシュ、タルト、シチューに入っていると、何だか妙に嬉しくなりますね。ピューレにすればソースにも、カレーにも、スープにもなり、卵と組み合わせれば、西洋風のオムレツも、日本風の卵とじも出来てしまいます。
酢や油ともすんなり合うので、サラダやナムルにしても美味しいですよ。さすがは中近東から世界中に拡散し、多くの人々に受け入れられてきた野菜です。
ほうれん草のあのひと際濃くあざやかな緑色が、多くの国の人々を元気にしてくれていることに違いありません!
見立番付 『日々徳用倹約料理角刀取組』
前章に出てきた『ほうれん草のおひたし』は、江戸の節約おかず番付「日々徳用倹約料理角刀取組※」の春の段にランクインしており、江戸っ子になじみの料理だったことがわかります。冬の間に美味しさが増したほうれん草を、浅春頃に食べるのをよしとしていたのだとしたら、かなり粋なこと。
※日々徳用倹約料理角刀取組(ひびとくようけんやくりょうりすもうとりくみ)とは…江戸時代、庶民の間で『見立番付(みたてばんづけ』というものが流行し、大相撲の番付に見立てた「節約おかず」番付のこと。ほかに名所、酒、女房、名刀…など、当時の様々な番付が残っているそうです。
ちなみに現代っ子によく間違えられる小松菜の「小松菜の浸しもの」は通年の段の前頭七枚目にランクイン。人間の世界でいえば、ほうれん草にとって、小松菜は永遠のライバル。小松菜は将軍吉宗に気に入られ、江戸川区小松川付近で多く栽培され、言わばブランド青菜。アクを取る必要もなく、用途も広いとなれば、その人気は、ほうれん草もかなわなかったということかもしれないですね。