歴史
英語でレタスの学名は『Lactuca sativa』。Lacはラテン語で『乳』を意味する原語。日本では、『萵苣』という中国の漢字がそのままあてられ、『ちしゃ(チシャ)』と読みます。『乳草(ちちくさ)』の略で、春の季語にもなっています。英語の学名も和名も、レタスの切り口から出る白い液体の見た目から付けられた呼び名だといわれています。
レタスの分類はキク科・アキノノゲシ属。歴史は大変古く、ギリシャでは2500年前、中国では1500年前、そして日本では1000年前から食べられてきたという、歴史の古い野菜です。最近の野菜のように思われますが、実は紀元前から食べられていたことに驚きですね。
原産は西アジア、地中海沿岸地帯。かなり古くから存在する野生種だったものを、地中海地域で改良・栽培され、紀元前4500年ごろからエジプトで食べられていたとのこと。古代遺跡の壁画にも、レタスが描かれたと思われるレリーフが残っているそうです。当時のレタスは、私たち日本人が想像する結球型の玉レタス(玉チシャ)とは違い、結球しないタイプのレタスでした。
その後、ギリシャからローマ帝国全域へ持ち込まれた時には既に、安眠と健康をもたらす野菜として『ロメインレタス(Romaine Lettuce)』が食べられていたとか。ロメインレタスは最近、日本でも人気のレタスで、シーザーサラダに欠かせないサクサクとした歯ごたえとほんのり苦味が美味しい、葉が巻かない立ちチシャタイプのレタスです。ちなみに名前の“ロメイン”とは“ローマの”という意味です。
さらにレタスは西アジアから東へと広がり、やがて7世紀頃に中国へ伝わると、茎チシャが生まれ、この結球しないタイプのレタスが定着しました。さらに下葉を掻きとって食用にするカキチシャ(掻き萵苣)と茎レタスに分かれ、茎レタスが中国固有の品種になったとされています。
日本には奈良時代か平安初期に、カキチシャタイプのものが入ってきたようです。丸く結球するタイプの玉チシャは江戸時代末期頃に欧米から持込まれ、その後、本格的な栽培が始まったのは明治以降になってからのこと。日本でサラダの材料として主役級の地位を占めるようになったのは、第二次世界大戦以降、進駐軍の常食として栽培され日本の食卓でも一般化していきました。今、私たちが一般的に食べている玉レタスは、クリスプタイプとよばれ、種はアメリカで育種されたものが多いです。
薬膳
レタスの味は苦味、性は冷性。その効能は、五臓を整え、脈を通し、気を強め、口臭を取り、歯を白くし、視界をはっきりせる、母乳の出をよくする、おしっこを出やすくするなどかなり多彩。
現在の薬膳では、性味は涼性、苦味と甘味をあわせ持ち、効能は、「清熱利尿」と「通乳」。「清熱利尿」は体に生じた余分な熱を冷まし、排尿作用により体の余分な水湿を排泄させ、水分代謝を盛んにすること。「通乳」は母乳の出をよくすること。
“新鮮なレタスを切ると白い乳状の苦い液体が滲出する”そんなところから、歯を白くする、母乳の出をよくする…といった効能が導き出されたのかな、と短絡的に想像していました。
さて、古いレタスの話に戻ります。チシャの意味の漢字「萵苣」は、1596年に上梓された中国の薬学書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」に登場しており、中国語の読み方は「wo ju(ウォ ジュ)」。面白いのは、東洋だけではなく西洋でも萵苣の実を煎じて服用すると初産の女性の乳房のしこりを和らげるのに効果がある、とされていたのです。
そして、歯を白くするという効能に関しては、レタスに含まれる食物繊維が歯のステイン(着色汚れ)を取り除く、なんて言う人もいましたが、この辺は噂話にとどめておきます。いずれにしろ、はじめてこの野菜を食べた人は茎から出るこの白い液体に驚き、神秘を感じたことでしょうね。
効用
現在の研究では、この白い液体に含まれる苦味成分は“ラクチュコピクリン”と呼ばれるポリフェノールの一種で、ラクチュコピクリンは葉よりも茎や芯の部分に多く含まれ、軽い鎮静と催眠促進作用があると言われています。適度に摂れば高ぶった気持ちを穏やかにし、自律神経のバランスを整え、安眠を促すことも期待できます。
世界的に有名な絵本、ビアトリクス・ポターの『ピーターラビット』(1902年発刊)にも、赤ちゃんうさぎがレタスをお腹いっぱい食べ過ぎて、気持ちよく眠っているところをお百姓さんに見つかって袋に入れられ、危うくパイにされかけるシーンがあるのは有名な話。当時のヨーロッパでも、レタスに眠気を誘う成分が入っていることが周知されていたということが分かりますね。
試してみてください♪
現代でも、授乳期のお母さんの乳房が熱を帯びてしこりがあったりする場合、その部分にキャベツやレタス湿布を貼って穏やかに冷やす…というのを聞いたことがありませんか?
効果のほどはデータがないので、試した方はぜひお知らせください!
食卓にどうぞ♪
レタスだけを使ったサラダは「ハネムーンサラダ」と呼ばれてます。なぜって「レタス・アローン “lettuce alone”」が「レット アス オンリー “Let us only” → 私たちだけにして」と聞こえるから。サラダを作ろうと思ったけれど、あらら、野菜がレタスしかないわ〜なんていうとき、「はいどうぞ、ラブラブサラダ!」と、ひと言添えて食卓にのせてみるのもなかなか愉快です。