れんこんのお話
れんこんは漢字で「蓮根」と書くため、普段食べているものが、植物の根っこだと思いがちですが、実は食用にしている部分は、ハス(ハス科の多年生水生植物)の地下茎の太く育ったところ。実際の根っこは、節から生える細いひも状のもので、節から副芽、子れんこんが出て、本芽が土の中で横たわるように大きく成長していきます。ちなみにれんこんの穴は、茎だけでなく、葉を支える柄の部分にも貫通していて、水の上に伸びた葉の気穴から外の空気を根に送り込む通気孔の役割も果たしています。
この穴を活かした料理と言えば、日本には熊本県の郷土料理「辛子れんこん」が有名です。
収穫方法については、素人が蓮田に入ってもスムーズに収穫することはかなり難しく、れんこんの生産農家の方曰く「れんこん作りは健康な土、そして忍耐と体力の勝負」とのこと。
冬の収穫期には、氷が張るほど冷たい泥状の蓮田の中に防寒・防水着に身を包んだ生産農家の方が泳ぐように入っていき、ホースで勢いよく泥の中に水圧を加えてれんこんを浮かび上がらせる“水圧堀り”という収穫方法や、水を抜いた泥田の中から専用のクワでれんこんの付け根から掘り起こす方法もあるそう。
八百屋さんあたりでは、節がつながっている状態で売られていますが、スーパーマーケットでは、きれいに洗ってカットされ、きっちりとパックされたものが並んでいます。
れんこんを見かけたら、農家の人たち(生産者)の大変な作業に思いを馳せてみたり、親子で買い物に行った際には、お子さんとそんな話をしてほしいなと思います。
ハスの花は泥水の中から清らかな花を咲かせる清純のシンボルとして、蓮池は仏さまがおさめる幸せに満ちた極楽浄土にもたとえられますが、蓮田も有機微生物たちが活発にはたらく居心地のよい環境であってこそ、美味しくて栄養たっぷりなれんこんが育つかとおもうと、美味しいというだけでなく、それ以上になにかあるのではないかと思える野菜です。
冬場は特に、れんこんの出番が多くなる季節。食べものの中でもたぐい稀なる造形美を持つれんこんを堪能してみてください。
種類
中国から導入された「支那種」「備中種」「杵島」という品種が大半で、これらは日本にあった在来種に比べて病気に強く安定的に収穫することができ、地下茎の肥大性がみられることが特徴とされています。れんこんの産地として有名な茨城のれんこんのほとんどが、この中国種であり、太く大きいのが特徴。粘りより、シャキシャキとした爽やかな食感が持ち味です。
また、日本種(在来種)は現在、日本の市場にはそれほど、出回ってはいないのですが、東海地方に、わずかにあるとされています。その形は細長く、薄茶色で、粘りがあることが特徴で、包丁を入れると糸を引きます。また、金澤で有名な“加賀れんこん”は、この古くから伝わる日本種(在来種)のれんこんを新たに品種改良したもので、糸を引くのが特徴です。
栄養と効用
れんこんは体にいい成分をたくさんもっており、主成分は澱粉で炭水化物。ペクチンなどの不溶性の食物繊維も多く、便通を良くして体から余分なものを排泄するので、腸のお掃除に良いでしょう。
レモンと同じくらいビタミンCも非常に豊富で、ビタミンB1やB2も含まれているので、疲労回復や風邪予防、肌荒れにもよし。
また、カリウム、亜鉛、銅、鉄などのミネラル分も多く、鉄分の吸収を助けるビタミンB12は貧血予防にもなり、最近では花粉症にも効果が期待されています。
れんこんを切ると糸を引くことがありますが、これはムチンという粘り成分のことで、加熱すると出てくる粘りも同様に、胃壁の保護や滋養強壮にも役立つとされています。
また、普段から食卓にのせることを心がけて食べることで血管を丈夫にし、血行を良く、皮膚の新陳代謝を活性化することでメラミン色素の沈着を防ぎ、シミ、ソバカスから肌を守り、美しいお肌作りにも役立つとされています。
薬膳と効用
中国では、れんこんの穴にもち米を詰めて、紅糖や桂花(キンモクセイ)を加えて煮るデザートが有名です。ほかに、中国でれんこんの定番料理と言えば、輪切りにしたれんこんと豚スペアリブを一緒に煮込むスープ。体を潤し、血液をきれいにする薬膳料理として、お店でも家庭でもよく食べられています。スペアリブは肉がほろりと骨からとれるほどやわらかくなるまでじっくり煮込むことで、れんこんがほっこりとした食感に変化します。あればクコの実やクレソンなどを加え、味つけは塩のみ。コクもありながら、さっぱりとした味わいがクセになるスープです。
中国や東南アジアの一部の国では、ハスはれんこん以外の部分、つまり、ハスの実やハスの葉も食用に盛んに利用されています。中国の市場では、夏が終わりに近づくとハスの花托(かたく)が出回ります。(花托とはシャワーヘッドのような部分)ハスの実は、その茎が分厚くなってできた花托(かたく)の中に育つクリーム色の実のこと。これは脾や腎を守り、精神に安定をもたらすとしてはるか昔から珍重され、ハスの実を煎じて薬効茶にしたり、さっとゆでて炒め物やスープ、お粥に使ったり、蒸してすりつぶしたものはハスの実餡となり、砂糖漬けにしたお菓子はお茶請けとしても親しまれています。この餡は、中華菓子の“月餅”に多く使用されているので、日本人でも、食べたことのある方も多いのではないでしょうか。
ハスの実を2つに割ると、中から小さな緑色のハスの種子の芽が出てきます。これを漢方では「蓮芯(れんしん)」と呼びます。蓮芯はとても苦く、体を冷ます作用が強いため、とりわけ心の熱を取り除いて精神を安定させる作用があるとされています。夏に暑さが続いてイライラしがちの時には、緑茶に2芽くらい加えて飲むと、効果があるとされています。
ハスの葉は「荷葉(かよう)」と呼ばれ、乾燥させたものは漢方薬としても用いられ、煎じて飲めば体内の余分な熱を取り除いたり、血液をきれいにしたり、利尿を促す効果があります。もち米、椎茸、干し海老、ホタテや腸詰ソーセージなどを炒めたものをハスの葉で包んで蒸しあげたおこわ「荷葉飯」も中国では、人気が高いご飯ものです。
「荷葉飯」といえば、江戸時代1697年に刊行された本草書『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』の「穀部之一」に「荷葉飯(はすのはめし)」が載っており、「新しい荷葉(はすのは)に飯を包み、蒸熟(よくむ)して食べるもので、腹中を寛(くつろ)げ、脾胃を強くする」と解説があります。このご飯は中国のものを真似たもののようですが、江戸時代にはほかにもいろいろな「蓮飯(はすめし)」があったようです。
例えば、ハスの若葉を細かく刻んで米と一緒に塩を少し入れて炊き、それを大きなハスの葉をお皿にして盛りつけるご飯。夏場、7〜8月に蓮の花を見る蓮見(はすみ/はちすみ)の名所、上野不忍池のほとりの料理茶屋でも食べられていたとのこと。
“はちすみ”とは、ハスの花托の部分が蜂の巣に似ていることからハスは「はちす」とも呼ばれていたようで、この蓮飯は江戸っ子には人気があったようですが、いったいどんな味だったのでしょう?
れんこんは薬膳では生食すると体にこもった余分な熱を冷まし、体の水分を補い、血の滞りを解消するとされ、火を通したものは、胃の働きを高め、血液を養うとされており、日本では古くから民間療法として、新鮮なれんこんをすりおろしたしぼり汁が咳止めやのどの痛み、熱、消炎、止血などに用いられてきましたが、はるか昔から言われてきたれんこんの効能が現代栄養学の観点から見ても、かなり一致している部分があるところが面白いですね。
れんこんで医者いらず!?
れんこんは切ってそのままにしておくと、黒ずんできますが、変色するのは、鉄とタンニンというポリフェノール系の色素が含まれているから。なかでもタンニンは血管を収縮させる収斂作用と熱を冷ます消炎作用があることから、止血・消炎作用に優れ、ぜんそくや粘膜組織の炎症を鎮めるとされています。
咳やタンを止めるのにれんこんの節に近いところを盃1杯ほどおろして、生姜汁少々、はちみつ少々を加え、熱湯を注いで飲むと良いといわれています。腸炎や下痢にも効果を発揮するようです。
搾り汁にはちみつを入れてお湯を注いでコップ半分くらい飲むと風邪の特効薬になると昔の人は言ったものです。風邪をひくとよく飲んだ人もいるのではないでしょうか。